カトリック教会の信者は世界に13億人以上といわれ、その総本山がバチカン市国です。キリストの弟子聖ペテロの墓の上に建てられた聖堂を中心として、ローマ教皇を絶対君主として国が営まれています。一教会の総本山が「国」としてわざわざ独立できるには理由があります。国全体が世界遺産に登録されるほど数千年前からの貴重な文化資産、切手・コイン、出版物を所有し、歴史的芸術的に守るべき価値があると認められているからです。また、あらゆる人種や国に心を砕く現教皇の人気は増すばかりで、カトリック信者だけではなく、様々な人々が魂の癒しを求め、観光に押し寄せています。2025年は聖年が行われる特別な年。心を洗い、多くの芸術に身を浸す、素晴らしい経験を約束してくれる注目の観光地です。
2025年は25年に一度の特別な年「聖年」を迎えます
No.01 「聖年」とは?
聖年とは、ローマを訪れた巡礼者たちに、教皇が聖年の大赦と呼ばれる特別免償を与える年を指します。これは旧約聖書に記された「ヨベル(Jubilee)の年」に由来しており、土地の安息や負債免除、奴隷の解放が定期的にめぐってくるというヘブライ人の考え方を反映しています。初期の聖年は、ローマの聖ペテロと聖パウロの大聖堂への巡礼のみで構成されていましたが、次第に聖なる扉などの象徴が追加されるようになりました。フランシスコ教皇(ローマ法王)の発表によると、2025年に行われる聖年は、2024年12月24日に開幕し、2026年1月6日に閉幕すると発表されています。パンデミックや世界平和にふれ、巡礼の大切さが説かれ、「希望は欺かない」というテーマが掲げられました。
No.02 25年に一度の特別なイベント
最初の聖年は、1300年、教皇ボニファティウス8世が始めました。神の神聖さが人々を変える時期であるとし、100年ごとに聖年を挙行すると決めました。しかし1343年には教皇クレメンス6世が、聖年の間隔を50年に短縮。1389年にはウルバヌス6世が、キリストの生涯年数と同じ33年周期で挙行するように変更しました。さらに間隔が短縮されたのが1470年、教皇パウロ2世が25年ごとに聖年を祝うべきであると定め、すべての世代が大きな免償を獲得できるようになりました。実際に25年周期で聖年が行われたのは1475年で、この規定は今なお実行されています。
No.03 「聖なる扉」とは?
聖年は、2024年12月24日、初代ローマ教皇の墓所を祀った、サン・ピエトロ大聖堂の扉を教皇自身が開くことで始まります。この儀式の記録は、第214代教皇に遡ります。現教皇は266代、聖なる扉は、何代もの教皇によって受け継がれてきた伝統なのです。聖年の巡礼は、聖なる扉を通ることが重要な目的の一つとなります。聖なる扉が設置されているのは、サン・ピエトロ大聖堂、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂の四大聖堂。すべての扉は順次開かれ、2026年1月6日には、サン・ピエトロ大聖堂の扉が閉じられることで終了。次の聖年まで、聖なる扉は漆喰で固く閉ざされます。
No.04 聖年が与えてくれるもの
聖年は教皇が勅書を発行することによって宣言されるのが伝統です。フランシスコ教皇は勅書で聖年の時が来たことを知らせ「希望の巡礼者は教皇から聖年の免償を受けることができる」と発表しました。免償とは、罪が神からゆるされるだけでなく、心の苦しみも取り除かれることです。免償を受けられる「希望の巡礼者」も明確にルールがあり、聖年のためのミサへの参加または、バチカン・サンピエトロ大聖堂、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂の少なくとも一つに巡礼を行うこととしています。つまり、信者でなくても巡礼するだけで「希望の巡礼者」として、ゆるしの秘蹟を受け取るチャンスがあるのです。
2025年に聖なる扉が開く!ローマ四大聖堂
No.01 サン・ピエトロ大聖堂
サン・ピエトロ大聖堂は、バチカン市国を代表する教会で、カトリックの総本山。信仰の自由を認め、キリスト教を初めて公認したローマ皇帝コンスタンティヌスが、イエスの一番弟子ペテロを祀るための教会として建設されました。世界中の人々が巡礼に訪れる大聖堂の右端には、通常は閉ざされている「聖なる扉」が設置されており、ローマ教皇がこの扉を開くことで聖年が始まります。そんな特別な大聖堂は、6万人を収容できる広さ。11の礼拝堂と45の祭壇があり、主祭壇にはバロックの巨匠ベルニーニが製作したブロンズの大天蓋が設置されています。また、第一礼拝堂にはミケランジェロのピエタ像が展示されています。聖母マリアの姿を若々しく美しい女性に仕立て上げ、精緻を極めた作品となっています。
No.02 サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂
サンタ・マリア・マッジョーレは「偉大なる聖母マリアにささげられた」という意味があります。その由来は、教皇リベリウス(ローマ教皇)の夢に聖母が現れ、「奇跡によって示す場所」に教会の造営を勧められた「雪の聖母」伝説にちなんでいます。お告げの通り、8月5日に真夏にしては珍しく雪が積もったため、雪に覆われたその場所に教会を建てたといいます。その後、432-440年に在位した教皇シスト3世により修復・再建され、8月5日をその献堂の日と制定されました。大きな特徴は、ローマ・バシリカ様式を取り入れた建築で、基本的な部分は5世紀のオリジナルの形を維持しています。大聖堂の内部に入ると美しいモザイクに目を奪われることでしょう。身廊のモザイクと主祭壇手前の凱旋門型モザイクは5世紀からのオリジナルが現存し、後陣部分は13世紀に追加されました。ローマカトリックの歴史を感じたい人におすすめの教会です。
No.03 サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂
サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂は、バチカン市国が誕生することになった歴史的場所。313年にローマ皇帝コンスタンティヌスが、キリスト教を公認した直後に建てられた教会です。元の建物はほぼ残っていないのですが、中世の名残として5世紀に建てられた八角形の洗礼堂があります。17世紀に教皇インノケンティウス10世のために再建されてバロック様式の外観となりました。18世紀には外観の正面にアレッサンドロ・ガリレイによる15体の彫像を設置され、現在の姿となっています。全長約130mもの聖堂には、5つの身廊があり、イエスの十二人の弟子たちの彫刻が荘厳な雰囲気を漂わせています。時間があれば、中庭を囲む回廊も回ってみましょう。柱廊やモザイク装飾など、細部まで美しい景観を堪能できます。
No.04 サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂
フオーリ・レ・ムーラとは「城壁外」を意味します。その名の通り、ローマ市を取り囲むアウレリアヌス城壁の外側に立つ大聖堂で、ローマで二番目に大きい教会といわれています。その歴史は4世紀初め、聖パウロが埋葬地にローマ皇帝コンスタンティヌスの命により建立したのがはじまり。18世紀には火事で焼失してしまったのですが、同じ寸法と間取りですぐに再建されました。5つある身廊は80本の柱で支えられ、天井には金で広範囲に装飾されているのが特徴です。火災を免れた天蓋や祭壇、後陣の大きなモザイクは現在も残されており、かつての面影を伝えています。
バチカンとローマにはほかにも見どころいっぱい!
No.01 システィーナ礼拝堂
システィーナ礼拝堂は、次代の教皇を選出するためのコンクラーベという選挙会場としての役割もあります。ミケランジェロやボッティチェッリ、ペルジーノらルネサンス時代に活躍した画家たちが装飾絵画を手掛け、天井や壁面はフラスコ画で埋め尽くされています。ミケランジェロが描いた天井画「天地創造」や壁画の「最後の審判」はぜひ鑑賞したい作品。左右の壁画は、旧約聖書のモーゼの生涯と新約聖書のキリストの生涯をテーマにした見ごたえのある作品を堪能できます。
No.02 バチカン美術館(バチカン博物館)
大小20以上の美術館・博物館からなるバチカン美術館。16世紀末に教皇ユリウス2世が創設し、歴代のローマ教皇が収集した約7万点もの作品を所蔵しています。おすすめは、古代ローマ時代の彫刻「ラオコーン像」を展示しているピオ・クレメンティーノ美術館や4部屋のフレスコ画に描かれた「アテナイの学堂」が有名なラファエロの間。壁や天井がイタリア各地の地図で埋め尽くされた地図のギャラリー、燭台のギャラリー、タペストリーのギャラリーなど一日では見学できないほど様々な名作と出会うことができる美術館です。
No.03 バチカン庭園
バチカン市国の約半分を占めるバチカン庭園。ルネサンス期の造園家ピッロ・リゴーリオやブラマンテなどによって開発された庭園で、かつてはルネサンスとバロック様式の彫刻や噴水を配置するとともに、イタリアカサマツやレバノンスギが整然と配されたイタリア式庭園でした。現在では自然の景観美を重んじるイギリス式庭園となり、その中にイタリア式庭園やワシの噴水と様々な公共施設が点在しています。歴史の移り変わりと普遍的な価値を感じながら国家としてのバチカンの姿を見ることができます。
No.04 サンタゴスティーノ教会
サンタゴスティーノ教会は、イタリア有数の画家カラヴァッジョ作の「ロレートの聖母」とラファエロ作の「預言者イザヤ」で有名な初期ルネサンスの教会です。フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会をモチーフにして1483年に建てられました。教会正面のファサードは直線・曲線・円で構成された特徴的な外観。館内には礼拝堂が並び、施しをする聖トマス像や出産の聖母像といった貴重な彫刻が絵画と共に配置されています。
No.05 サンルイジ・ディ・フランチェージ教会
イタリアローマにあるバロック建築のサンルイジ・ディ・フランチェージ教会。「小バジリカ」の称号を持つこの教会は、フランス国王ルイ9世を守護聖人とする教会で、祭壇には肖像画「栄光のサン・ルイージ」が飾られています。特筆すべきはその内装。バロック様式の特徴ともいえる豪勢な調度品と美術品で溢れていて、教会内コンタレッリ礼拝堂には有名な絵画「聖マタイの召し出し」「聖マタイと天使」「聖マタイの殉教」からなるカラヴァッジョ「聖マタイ3部作」が展示されています。大きな特徴は、ローマ・バシリカ様式を取り入れた建築で、基本的な部分は5世紀のオリジナルの形を維持しています。大聖堂の内部に入ると美しいモザイクに目を奪われることでしょう。身廊のモザイクと主祭壇手前の凱旋門型モザイクは5世紀からのオリジナルが現存し、後陣部分は13世紀に追加されました。ローマカトリックの歴史を感じたい人におすすめの教会です。
No.06 サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会は、ローマで唯一のゴシック建築です。 外観は素朴な建物ですが内装はとても豪華で、ゴシック様式の特徴であるバラ窓やステンドグラスが輝く空間に様々な美術品が展示されています。主祭壇そばにある柱の前にはミケランジェロ作のイエス・キリスト像が展示されており、訪れた多くの人々を魅了しています。また、この教会は天文学者ガリレオの2回目の宗教裁判が行われた教会としても知られています。
No.07 サン・ピエトロ広場(セント ピーターズ スクエア)
和解の道とも呼ばれるコンチリアツィオーネ通りを抜けると、30万人を収容できる大規模な広場が広がっています。広場中央にはエジプトのオベリスクがそびえたち、周囲はバロック建築の巨匠ベルニーニによるコロネードが取り囲み、そして正面のサン・ピエトロ大聖堂の壮麗なファサードが観光客を出迎える。この広場がサン・ピエトロ広場です。世界中から集まる信者が教皇のミサを聞く場所として、そしてバチカン観光の玄関口としてこの広場は多くの人に愛されています。
No.08 教皇謁見
聖年の免償を授ける教皇フランシスコ。聖年をとりしきるのはローマ教皇です。現教皇フランシスコはラテンアメリカ出身初の教皇で、明るく飾らない人柄と様々な問題に対する積極的な活動に、世界中から熱烈な支持が集まり、彼を題材にした映画やドキュメントが多数制作されています。教皇には毎週水曜日早朝、サン・ピエトロのオベリスク広場で謁見することができます。バチカンから無料のチケットを入手する必要がありますが、様々な言語での朗読や賛美歌、ラテン語の祈りが捧げられ、最後は教皇が広場を歩く様子を観ることができます。露出を控えた清楚な服装で、ロザリオ、十字架、聖なるカードをもっていると、運が良ければ、直接祝福をもらえたり、握手できるチャンスもあるようです。
No.09 サン・ピエトロ大聖堂のクーポラ
バチカンのシンボルでもあるサン・ピエトロ大聖堂。16世紀の再建工事の際に有名な建築家たちが設計にあたり、ルネサンス三大巨匠と呼ばれたミケランジェロもクーポラ(ドーム)の設計を手掛けました。クーポラは展望フロアがあり、階段またはエレベーターで昇ることができるので、ぜひ見学してみてください。クーポラ内部のモザイク画を間近で鑑賞でき、ベルニーニ作のブロンズ天蓋を展示した主祭壇を上から眺めることができます。展望台へ出るとサン・ピエトロ広場やバチカン市国の政庁舎、バチカン美術館などが見える絶景が広がっています。
No.10 サンタンジェロ城
テヴェレ川の右岸にあるサンタンジェロ城。元々は135年にローマ帝国の皇帝ハドリアヌスが自らの墓として建設を始めた霊廟で、14世紀以降は要塞として活用された歴史があります。現在は国立博物館となり、教皇が住居として利用していた部屋や美術コレクション、フレスコ画などを公開しています。屋上にはテラスもあり、サン・ピエトロ大聖堂やデヴェレ川を見下ろす絶景を楽しめるのが魅力です。大きな特徴は、ローマ・バシリカ様式を取り入れた建築で、基本的な部分は5世紀のオリジナルの形を維持しています。大聖堂の内部に入ると美しいモザイクに目を奪われることでしょう。身廊のモザイクと主祭壇手前の凱旋門型モザイクは5世紀からのオリジナルが現存し、後陣部分は13世紀に追加されました。ローマカトリックの歴史を感じたい人におすすめの教会です。
聖年のバチカンはいかがでしたか。聖なる扉は信者でなくてもあらゆる人々に開放され、サン・ピエトロ大聖堂、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、サン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂の四大聖堂を巡礼するだけで「希望の巡礼者」となれる貴重な機会。バチカン美術館やシスティーナ礼拝堂など、バチカン含む周辺エリアには美しい名所が目白押しです。25年に一度の聖年をどうぞお見逃しなく。
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