限定公開で出会う まだ見ぬ日本の美を知る旅

公開日 / 2026.09.16

宮越家の《四季花木障子》。庭園の木々を借景とし、春の訪れを真珠色で表現したモクレン(またはコブシ)を挟み、青・緑・黄色で描かれたアジサイ、ケヤキ(またはハゼ)が朱色に色づく

よく知られた観光地や、はやりの写真映えスポット。インターネットやSNSを通じ、かつてないほど無数の〝美〟をリアルタイムで手軽に見られる時代になりました。改めて〝本物の美〟とは何でしょうか。ヒントは時代を超え静かに守り続けられてきたものの中にこそ、あるのかもしれません。今回は、通常非公開、年数回のみ公開といった背景からあまり知られていない地を含め、〝日本の本物の美〟を巡る旅へ出かけましょう。

多くの文化財を所蔵する旧家 宮越家

夫人へ――ステンドグラス先駆者の傑作

年2回のみ公開される青森県の旧家宮越家。およそ100年の歴史がある文化財が数多く残されており、近年は襖絵「春景花鳥図」(※)が、英国の大英博物館所蔵の「秋冬花鳥図」と対であることが発見され大きな注目を集めました。

9代当主・正治が夫人イハに贈ったと言われる、離れの「詩夢庵」と庭園「静川園」も見逃せません。日本のステンドグラスの先駆者、小川三知の最高傑作があります。小川は大正から昭和初めに活躍し、日本画の素養と米国留学で学んだ高度なガラス技法でやわらかな線と美しい色合いの気品ある作品を生み出しました。慶應義塾大学図書館旧館や、鳩山会館などの個人邸のステンドグラスを多く手掛けましたが、現存するオリジナルの作品は少ないのです。

詩夢庵の「涼み座敷の間」の「四季花木障子」は、4枚組のガラス障子に描かれた花木によって季節の移ろいを表した作品。背面の庭木を借景としています。廊下の円窓は、古来多くの物資や人が行き交った「十三潟」の景観がモチーフ。小川得意の白砂青松の図案で、薄暗がりの中で光が入ると、十三潟の水面にさざ波が寄せる、小川の孤高の技が鮮やかに映し出されます。

ツアーでは、青森銀行記念館、旧東奥義塾外人教師館など青森のクラシック建築も訪れます。個人では隠れた名所を要領よく巡ることは難しいですが、ツアーなら可能です。

※2026年9・10月出発は、襖絵「春景花鳥図」が展覧会巡回中のためレプリカのみの展示となります。

《十三潟景観》小川三知が得意とする白砂青松の図案が円窓の構図で表されるとともに、裏側には、ティファニー様式とよばれるガラスを重ねる高度な技法が用いられる

希少な、小川三知の作品群

ステンドグラス作家
小川三知

日本のステンドグラス作家の草分け的存在、小川三知。海外で身に着けたガラス技法を織り交ぜつつ、日本情緒を感じさせる作品を多く残しました。作品の多くが関東大震災や戦災などで失われ、現存作品は多くありません。宮越家のものは、当時のデザイン潮流を意識しつつ、和の意匠や技巧的なガラス技術の粋が盛り込まれており、小川の最高傑作とされています。

現存する唯一の公家屋敷 冷泉家

激動の世、和歌文化を守った父子の家

通常非公開、年数回のみ公開される冷泉家。日本で唯一、完全な姿で現存する公家屋敷です。祖先は平安・鎌倉の歌聖と仰がれた藤原俊成・定家父子。貴族から武士の世へ移り変わる時代、京都では貴族が和歌の文化を守りましたが、その中心にいたのが俊成・定家父子でした。

《冷泉家住宅》毎年、室内に文物が展示されるが、今回は、春秋の行楽に用いる徳利や杯、客迎えの際のたばこ盆や食器など江戸時代の公家文化を表した品が展示される(予定)

定家は、父・俊成が唱えた「幽玄」などの美意識を受け継ぎ発展させました。その歌風は『新古今和歌集』にも表れ、和歌史に大きな影響を与えました。『源氏物語』の写本などにも携わり、その文化は冷泉家へ。現在も数万点に及ぶ典籍などが伝わります。

寛政2(1790)年に再建された建物とその配置構成は、旧制を忠実に伝えていることから、国の重要文化財に指定されています。激動の世、類いまれなる審美眼で文化を後世に残し父子が守った“美”の面影は、今も京都にたたずんでいます。

《京都迎賓館》「歓迎」の花言葉を持つ藤の名を冠した大広間「藤の間」。日本画家の鹿見喜陌(きよみち)の下絵をもとに39種類の草花が織り込まれた綴(つづ)れ織「麗花」が賓客を出迎える 出典:内閣府ホームページ https://www.geihinkan.go.jp/kyoto/

近代の日本は、西洋の影響を受け急速に独特な文化が発展しました。伝統的な日本建築と現代的な建築技術の融合を目指した京都迎賓館ではまさに、その調和を感じられます。

日本の伝統建築様式である入母屋屋根と数寄屋造りの外観や、芸能や芸術が彩る四つの部屋、伝統的な「庭屋一如」の思想をもとに緑や池が建物にとけ合うよう配置された庭園など、日本の“粋”を垣間見ることができます。個人では訪れにくいですが、ツアーなら予約の手間も不要でガイド付き。冷泉家と合わせ、日本に継承されてきた“美”をたどることができます。

PROFILE
冷泉家後嗣
野村 渚先生

日本人の心のよりどころとなれるよう努力したい
和歌は国風文化の最も象徴的なもので、千年を超える時間によって洗練されてきた伝統文化の基幹をなすもの。それがそのまま、古都・京都にあり続けることが、多くの日本人にとって、心のよりどころとなればとてもうれしいですし、そのように思っていただけるよう努力したいと思っています。

(撮影:吉田亮人)

紅葉が映える福島県迎賓館

《福島県迎賓館》1922年創建。当時の皇族の生活様式や日本建築の美を垣間見ることができる

南東北の美しい名建築に出会う旅へ

通常非公開の国の重要文化財、福島県迎賓館。大正天皇第3皇子・高松宮宣仁親王により、有栖川宮威仁親王妃慰子の保養のために、大正11(1922)年に建設されました。1年余りの歳月をかけて完成させた別邸で、還暦前の親王妃への気遣いから、自然の景観を庭園に見立てた純日本風のたたずまいを有しています。古い伝統的和風住宅の皇族別邸として全国的にも珍しい遺構です。自然石を基礎とし、周囲の景観と地形を庭園に見立てた落ち着いた控えめな外観ですが、一方で中へ入ると、格式と様式を重んじた極上の日本建築による住空間が広がります。秋は紅葉が美しい自然林を生かした庭園とともに、上層貴族・武士住宅の姿を今に伝えます。東屋からは、湖面に天を映す猪苗代湖も望めます。

ツアーではほかにも、有栖川宮威仁親王の別邸でルネサンス様式の洋館「天鏡閣」や山形県郷土館「文翔館」などを巡り、皇族の宿所ともなった邸宅「上杉伯爵邸」にて夕食もいただきます。個人ではアクセスしづらく、福島県迎賓館などは予約が必要ですが、ツアーならその負担もなく案内付きで巡ることができます。

《山形県郷土館_文翔館》1916年創建。ジョサイア・コンドルの弟子・田原新之助によるレンガ造公共建築

※本記事で紹介している内容は、2026年8月時点の情報をもとにしています。 最新情報は、公式サイト等でご確認ください。