
知的好奇心を刺激し、さまざまな「学び」と出会える「大人の社会科見学ツアー」を展開するクラブツーリズム。今回は、普段は立ち入ることのできない、東京の地下に広がる巨大インフラの見学ツアーに参加してきました。
訪れたのは、環状七号線の地下に広がる巨大治水施設「神田川・環状七号線地下調節池(かんだがわ・かんじょうななごうせんちかちょうせつち、以下、環七地下調節池)」。都市を水害から守るための仕組みを学びながら、地下43mに広がる巨大空間を実際に歩きます。さらにツアーの最後には、地下トンネルでの幻想的なLEDランタンの打ち上げ体験も……!
日々暮らす街の地下に広がる“もうひとつの世界”。実際にライターが参加してきた様子を、詳しくレポートします。

集合場所は、杉並区にある善福寺川取水施設の管理棟。東京をぐるりと結ぶ幹線道路・環状七号線から一本入った住宅街の一角にあるこの場所が、東京の水害対策を支える重要なインフラの入口です。

本ツアーは他のツアーと合同で実施される「共同催行ツアー」で、バスで到着した参加者も合流。ご夫婦や友人同士、親子など、老若男女さまざまな顔ぶれが集まりました。受付を済ませた後、まずは東京都公園協会のスタッフによる説明を受け、施設の解説動画を視聴します。

環七地下調節池は、延長4.5km、内径12.5mのトンネル状の巨大施設。
最大54万m3、25mプール約1800杯分の水を貯めることができます。

東京で近年増えるゲリラ豪雨や台風の際には、神田川・善福寺川・妙正寺川の水を一時的に取り込み、街を洪水から守る役割を担っている、重要な施設。

動画視聴の後は、操作室と模型室を順番に回ります。操作室では、大きな操作パネルを見学。映画で見るような操作パネルに、テンションが上がります!
基本的にはこの施設は無人ですが、台風や大雨が予想されると24時間365日、東京都の職員が駆けつけるという水防体制が整えられているのだとか。

こちらが、取水ゲートの操作を行うボタン。操作は二段階になっており、誤操作を防ぐための工夫がされています。操作パネルには、約1km南にある神田川取水施設や、3km以上北にある妙正寺川取水施設のゲートを制御するためのボタンも備えられていました。

台風や大雨時、職員はモニターで河川の水位を確認しながら操作を行います。まず取水ゲートを閉め、川の水が調節池に流れ込まないように制御。これは、大雨のピークが来たときに調節池へ水を取り込むための準備です。
水位が上がり目印となるラインに達すると、取水ゲートを開く操作を行い、川の水を地下調節池へと流し込んでいきます。

現在は、白子川地下調節池とつなぐ連結工事も進められており、完成すれば全長約13.1kmにおよぶ巨大な地下調節池となる予定とのこと。最終的には海まで連結して放流する計画だそうです。

次は模型室で模型を見ながら説明を受けます。施設の仕組みをさまざまな角度から視覚的に理解できるため、一度ではわかりにくい構造も、徐々にイメージがつかめてきます。
写真や動画の撮影は自由。記録として残せるので、あとから見返して学び直すことができるのもうれしいポイント。

環七地下調節池がどのように機能するのか、模型に実際に水を流す実演も行われました。水深が写真のオレンジのラインを超えると、取水ゲートを開けて地下調節池へ水を取り込むサイン。

取水ゲートが開くと、水が地下へと流れ込んでいきます。こうして目で見られると、仕組みが理解しやすい!

らせん状の構造になった「ドロップシャフト」で水を効率よく地下へ送り込み、その後「減勢池」で水の勢いを弱めます。
「減勢池」からつながっているのが、地下調節池へと続く約150mの連絡管。今回の見学では、この連絡管を実際に歩きます。これは楽しみ!

ドロップシャフトの役割を理解するため、ペットボトルを2本重ねた模型を使った実演も行われました。
水を入れた状態で、ペットボトルをそのままひっくり返すと、水は振動しながら落下します。次に、うずを発生させながら流すと、水はよりスムーズに落ち、振動や音も少なくなることが確認できます。
この仕組みによって、水を効率よく地下へ流すだけでなく、周囲への騒音も抑えられているそうです。さまざまな観点から課題解決に配慮された施設なのだと感心するばかり。

長さ約150mの連絡管の先には、地下調節池が。「これからLEDランタンを打ち上げるのはここです」の説明に、胸が高鳴ります。
模型を前にすると、地下に広がる巨大施設の位置関係がよくわかり、体験への実感がぐっと湧いてきました。

ちなみに、地下調節池に溜められた水は、機械棟に設置された2つの排水ポンプでくみ上げ、川の水位が落ち着いたタイミングで再び河川へ戻す仕組みになっています。

10分のトイレ休憩を挟み、いよいよ実際の地下調節池へ。
善福寺川取水施設の管理棟の壁に描かれた円形の枠は、地下調節池のトンネルの直径と同じ大きさなのだとか。人物と並ぶと、そのスケールの大きさがよくわかります。

地下調節池へは、階段かエレベーターで降ります。階段は約200段ありますが、気合で階段を選択。やっと到着です。地下43m地点まで辿り着きました。

こちらが、先ほど模型で説明のあった排水ポンプ。模型で見た構造を実際に目にすると、そのスケールの大きさを改めて実感します。

いよいよ地下調節池へ。胸の奥に、心地よい緊張が走ります……!

階段を降りると、目の前に現れたのは、想像を超える巨大空間。これが、地下調節池へとつながる150mの連絡管のトンネルです。ひんやりとした空気があたりを包み、思わず息を呑みます。
柱に白く描かれる「ヒ」はコンクリートのひび割れ、「ロ」は漏水を示す印。こうした表示からも日々入念な点検を行い、施設の機能を維持していることがわかります。

反対側には、先ほど模型で見た「減勢池」があり、写真の上部が「ドロップシャフト」。ここから川の水が一気に落ち、地下調節池へと流れ込む仕組みです。先ほど模型で構造を見ていたおかげで理解もスムーズに。実物を前にすると、その圧倒的なスケールに、しばし立ち尽くしてしまいます。

トンネルの地面には通常、泥水が溜まっているそうですが、ツアーの前にしっかりと清掃されていたので、安心して歩くことができました。

少し進むと、トンネルの壁に描かれた絵が目に入ります。これは、この部分が完成した2001年に、地元・杉並区の小学4年生が描いたものだそう。地上で制作した作品を地下で組み立てたもので、施設が地域に開かれた存在であることを感じさせます。


「タイタニック」や「イチロー」など、当時の世相を感じさせるキーワードも。時代の空気が伝わってきて、ほのぼのとした気持ちになりました。

いよいよ地下調節池のトンネルに到着。

歩いてきた連絡管でも十分にスケールの大きさを感じましたが、ここは桁違い!写真では伝えきれないほどの迫力です。このトンネルが通っているのが、ちょうど環状七号線の真下、地下約43mの地点。

トンネルの奥底に黒く見えている部分は、すべて泥。普段はこのように泥が溜まっている状態です。

壁には、これまで水が溜まった高さに跡が残っています。参加者は思い思いにペンライトで照らしながら、写真撮影などを楽しんでいました。
このトンネルで水の取り込みが始まったのは1997年。2026年までの約30年間で、実際に水を溜めたのは、合計47回だそうです。なかでも2013年は1年間で5回稼働し、そのうちの1回は天井近くまで満水になったとのこと。こうした数字を聞くと、この地下施設が都市を守るうえでいかに重要な役割を担っているのかがよくわかります。

せっかく地下約43mまで来たので、ここでちょっと面白い体験も。先ほど歩いてきた連絡管に向かって「ヤッホー!」と叫ぶと、「ヤッホー、ホー……」と見事なこだまが返ってくるのです。
ツアーでは代表して参加者2名がチャレンジ。「気合いだー!」と叫ぶ声も響き渡り、思わず歓声が上がりました。これは、連絡管の奥の壁に音が反射して戻ってくるため。連絡管は往復で約300m。音速(約340m/秒)を考えると、約1秒後にこだまが返ってくるというわけです。
その後は自由時間となり、参加者それぞれが声を響かせながら、この不思議な体験を楽しんでいました。

他にも、記念撮影をしたり、影絵で遊んだり。参加者は思い思いに地下空間を楽しみます。学ぶだけでなく、五感を使ったユニークな体験型の企画も用意されているので、楽しみながら施設について理解を深められます。

そして今回のツアーの目玉が、見学の最後に行われた特別企画、LEDランタン打ち上げ体験。環七地下調節池でLEDランタンの打ち上げを行うのは、なんとクラブツーリズムのこのツアーが初めてとのこと。

トンネルの内部に降りて、溝に沿ってLEDランタンを放ちます。地下の巨大空間でどんな光景が広がるのか、期待が高まります。

巨大な地下空間の中で、参加者それぞれがLEDランタンを手に持ち、空へ放つようにゆっくりと手を離します。LEDランタンには、それぞれ思い思いの言葉を書き込みました。こういった体験で、旅の思い出がより一層印象深いものに。

BGMに映画のテーマ曲が流れるトンネル内は、ゆらめくLEDランタンによって幻想的な雰囲気に包まれました。ペンライトの光をすべて消し、LEDランタンのやわらかな光を静かに楽しみます。学びがあるだけでなく、こうした情緒的な体験もできるとは——満ち足りた時間が広がり、心が洗われるようです。
普段は防災施設として機能する場所が、この瞬間だけは体験の舞台に。「社会科見学」と「体験イベント」が組み合わさった、特別な時間です。

帰り道の連絡管にはレインボーの光に照らされた演出が施されていました。最後の一瞬まで続く心遣いと仕掛けに、思わず心が温まります。
以上でツアーは終了。光や色は記憶を呼び起こすもの。今回の体験は、いつまでも鮮やかな思い出として残りそうです。

帰り道に善福寺川沿いを歩くと、取水ゲートが目に留まりました。来るときは気づかなかった景色なのに、見学を終えたあとでは感じ方がまったく違います。「これが、あの……!」と思わず足を止めてしまいました。

ふと見ると、カモがすいすいと泳ぐ善福寺川。そんな穏やかな景色の裏側で多くの人の努力によって都民の安全が守られているのだなと、あらためて深く感銘を受けました。

実際に地下へ降り、構造を学び、職員の方の話を聞くことで、ニュースや資料だけでは見えてこない都市の裏側を、立体的に感じられた本ツアー。東京の地下には、私たちの暮らしを守る巨大なインフラが広がっています。普段何気なく過ごしている街の見え方が少し変わる——そんな、発見に満ちた体験でした。
最初は少しハードルが高そうに感じた「地下のインフラ見学」。けれど、徹底した安全対策と、丁寧なガイドのおかげで、目の前の圧倒的なスケールに没頭して楽しみながら見学できました。
普段意識することのない場所を訪れることや、個人では立ち入りにくい場所を見学することで、見慣れた街の景色が少し違って見える——そんな気づきをくれるのが、この「大人の社会科見学」。次はどんな場所で、どんな体験ができるかな。次の旅も、また楽しみです。
※本記事で紹介している体験・見学内容は、取材時点の状況に基づくものです。施設の公開範囲や営業時間、料金、ツアー内容は変更となる場合がありますので、最新情報は各施設・公式サイト等をご確認ください。掲載写真は許可を得て撮影したもの、またはイメージ画像です。