クラブツーリズム TOP > 「旅の友」web版【西日本版】 > 科学で旅はもっとおもしろい。 第6回 発酵
探究心や好奇心は、いつも胸に抱いていたいもの。
旅のあれこれを科学的にひも解いて、旅をもっと楽しもう。
健康食に注目が集まっている昨今、味噌やみりん、醤油など、昔ながらの発酵食品が見直されている。発酵食品は身の回りにあふれているが、発酵とはなんだろうか。知っているようで知らない、発酵の世界を探ってみよう。
発酵に欠かせないのは微生物の存在だ。微生物が栄養を得るために、有機物を分解する働きを発酵と呼ぶ。この働きによって、食べ物の栄養価が高くなったり、甘みを増したり、保存性が良くなったりと、人にとって良い作用が及ぼされる。ちなみに、私たちの体にとって、良い働きをしてくれるものを「発酵」、悪い働きをするものを「腐敗」という。つまり、科学的には発酵も腐敗も同じ働きだ。
発酵に力を貸してくれる微生物には、大きく分けて「カビ」「細菌」「酵母」の3つがある。高温多湿の日本では、「カビ」を利用した発酵食品が豊富だ。中でもコウジカビは、味噌、みりん、醤油、日本酒など、昔からある発酵食品づくりに欠かせない重要なもの。「飲む点滴」ともいわれる甘酒も、米にコウジカビを繁殖させた米麹からつくる。甘酒が甘いのは、コウジカビ自身が持つ酵素が、米のデンプンを分解し、糖分に変える働きをするからだ。みりんが甘くなるのも、同じく酵素の働きによる。
一方、地中海性気候で乾燥しているヨーロッパでは、「細菌」や「酵母」を利用した発酵食品が多い。ヨーグルトやチーズは、細菌の一種である乳酸菌を利用している。乳酸菌は、雑菌の繁殖を防ぐ効果が強く、食品の保存性を高める効果があるのも特徴。
「酵母」はアルコールやパンづくりに欠かせない微生物だ。糖を餌にするので、もともと糖を持っている果物などとの相性がいい。また、果汁の糖をアルコールに変換(発酵)する力を持っている。ブドウからワインができるのは、この酵母の働きによる。また、発酵過程で炭酸ガスを発生させる性質があり、この炭酸を逃さずにつくったワインが、スパークリングワインになる。パンが膨らむのも、発酵時の炭酸ガスを利用したものだ。
微生物はすみつく土地の環境によって種類が異なるため、発酵の仕方も違うので、風味も異なる。旅した先々で、その土地に伝わる発酵食品を口にしてみれば、新しい発見をもたらしてくれるかもしれない。
米麹、塩麹、酒麹など日本でなじみの深いコウジだが、「麹」と「糀」の2種類の文字を目にしたことはないだろうか。一般的には中国で生まれた漢字の「麹」が使われているが、「麹」は米や麦など穀物全般に繁殖する発酵カビを指し、和製漢字の「糀」は穀物の中でも主に米に繁殖するニホンコウジカビだけに当てられる。
ニホンコウジカビは、「国菌」とも呼ばれるほど、日本の発酵食品には欠かせないカビ。数あるコウジカビの中でも、分解能力に優れている。根が浅く胞子がモコモコと膨らんだ形状。上記でふれたように、ニホンコウジカビは糖分をつくる力が強いため、甘味がある。
一方、中国では、菌糸が穀物の深くまで根を生やすクモノスカビなどが一般的に利用されている。風味にも違いがあり、クモノスカビは酸味が強い。クモノスカビでつくられる紹興酒は、できたては酸っぱいため、熟成させて穏やかな風味になってから飲酒する。