クラブツーリズム TOP > 「旅の友」web版【西日本版】 > 科学で旅はもっとおもしろい。 第4回 黄金比
探究心や好奇心は、いつも胸に抱いていたいもの。
旅のあれこれを科学的にひも解いて、旅をもっと楽しもう。
自然の中に存在する、植物や生き物の形に目を向けてみると、球形や多角形、立方体など、まるで人が作ったかのように整った形をしているものを見つけることができる。
12〜13世紀初頭のイタリアで、神秘的な形に魅せられ、自然界に隠れている美しい数列を見つけた人物がいる。ピサ出身の数学者フィボナッチだ。
当時のピサはイタリアの重要都市のひとつで、ピサの斜塔の建設が行われたのもこの時代だ。インドやイスラム圏などの思想や学術が持ち込まれ、世界観が大きく変わる転換期。数に興味を持っていたフィボナッチは、インド、アラビアの数の概念を学び、やがて、自然の中に潜む数列「フィボナッチ数列」を見つけ出した。
例えば、ヒマワリの中心にある小さな花の並び方に注目してみると、左回りと右回りの渦巻きが見られる。この渦巻きの列は、どのヒマワリも決まって同じ数(21、34、55、89のいずれか)でできている。一見ランダムに見えるこれらの数だが、実は、隣り合った数の和が規則正しく並ぶ、フィボナッチ数列になっているのだ。
●●●● 右周り
●●●● 左周り
ヒマワリの花の配列は下記の3パターンしか存在しない
◆左回りに21列、右回りに34列
◆左回りに34列、右回りに55列
◆左回りに55列、右回りに89列
ヒマワリのようにフィボナッチ数列に値する法則は、植物の葉、花びらの付き方、台風の渦など自然界に多く見られる
まずは、同サイズの正方形を2つ並べ(長方形)、その上に長方形の長辺が1辺となる正方形を積む。図のように黄金比率を持った「黄金長方形」が次々とできあがる
「1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89……」
「1」と「1」から始めて、前の2つの数を足していくとできあがるのが「フィボナッチ数列」。隣り合う数を割り算していくと、数が大きくなるにつれ「約1.618」の黄金比率に近づいていく。「例89÷55=1.61818…」
フィボナッチの数列から作られる長方形の縦と横の比率は、多くの人が理由もなく美しいと感じる黄金比(約1対1.618)と同じで「黄金長方形」と呼ばれている。正確に整った形は人を感覚的に惹きつけるといわれ、この黄金比はデザインの現場や建築物で多く見られる。著名な建築家ル・コルビュジエが作った建造物の基準寸法「モデュロール」も人体の寸法とフィボナッチ数列が基になっている。
フィボナッチの時代より、はるか前のものだが、ギリシャのアテネにあるパルテノン神殿やフランスのパリにあるルーブル美術館所蔵の「ミロのヴィーナス」からも黄金比を見つけることができる。
美しいと感じるものが、実は特別な数字と関係があると想像するだけで、ワクワクしないだろうか。旅先で世界遺産や美術品などを目にするとき、この特別な比率を意識しながら見てみると、物の見方が変わってくるかもしれない。
世界遺産アクロポリスの丘にあるパルテノン神殿は、柱の高さと建物全体の高さ、正面、側面の縦横の比率が黄金比。斜めから見上げるのが一番美しく見えるといわれている
ミロのヴィーナスはおへそを基準とした下半身と上半身の比率が黄金比。また、足からおへそまでと全身の高さも黄金比となっている