なぜクラブツーリズムの旅は“安全”に“安心して”楽しめるのか。
元気に健やかな生活を送ることに良い影響を与えているのか。
その理由を連載コラムで皆様にお届けしていきます。
※スマート・エイジングとは、「エイジングによる経年変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟すること」を指します。東北大学が2006年から提唱している少子化・超高齢社会における新しい概念で、東北大学が商標を有しています。※登録番号 第6127103号
【第20回】
いくつになっても新たな挑戦をする人の共通点
作動記憶量が減ると新しいことにおっくうになる
一般に高齢になるにつれ新しいことに取り組むのがおっくうになります。原因は、私たちの認知機能の一つ「作動記憶量」が加齢と共に減っていくことにあります。
作動記憶量が減ると、新しいことの理解に必要な時間と労力が増えていくため、高齢になると新しいことの学習がおっくうになるのです。
多くの高齢者にとって通販ではまだ紙のカタログが好まれ、会員向けの通知も紙ベースの希望が多いようです。新型コロナウイルスのワクチン接種予約もネットより電話が圧倒的に多かったです。
「新しいこと=ICTやデジタル機器」の習得がおっくうなため、「昔からなじんだもの=電話・紙媒体」を好むのです。
一方で、高齢期でも新たなことに取り組み、活動的に過ごす人も目につくようになってきました。
81歳でiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介された若宮正子さんは86歳。日本最高齢のフィットネスインストラクターとして活躍中の瀧島未香さんは90歳です。
高齢期でも新たなことに取り組む人の共通点
この二人には共通点があります。一つは、新しいことに取り組み始めたのが60代だという点です。
若宮さんがパソコンを始めたのは定年退職後です。人とおしゃべりをするのが好きな彼女は当時流行り始めていたパソコン通信を始めるためにパソコンを習ったといいます。
瀧島さんもスポーツジムに通い始めたのは65歳。70歳で水泳を始め、72歳でマスターズの水泳大会に出場し、クロールと平泳ぎで大会新記録を獲得しています。さらに74歳からフラダンスを始め、78歳からヒップホップも始めています。
もう一つは、二人とも「世界最高齢のプログラマー」「日本最高齢のフィットネスインストラクター」という「世界(日本)最高齢の○○」で注目を浴びている点です。
陸上競技などでは高齢になるにつれ参加者が限られるため、「70歳以上の部で世界記録」といった例が少なくありません。つまり、普通の高齢者ならまだ誰もやっていない「ニッチな分野」で活躍しているのです。
年金生活ができる高齢者にとっては多額の金銭報酬より、他人に認められたり、社会的注目を浴びたりする「心理的報酬」の方が、継続のモチベーションが上がりやすい傾向があります。
つまり、「高齢者なのにここまでやるのか」と思わせる活躍の場を見つけだすことが継続の大きな動機となっているのです。
この二人のように、高齢になってからも新しいことに取り組める人は、先に触れた「作動記憶量」が何らかの理由で若い頃と同等に維持されている可能性が高いのです。
この傾向は、若い頃から好奇心が旺盛で、多くのことに興味を持ち、行動的な人に多く見られます。
いくつになっても新たなことに挑戦できる秘訣
しかし、若い頃にこうした傾向がなかった人もあきらめることはありません。
実はこの作動記憶量は「スパン課題」や「Nバック課題」といった脳のトレーニングによって拡大できることが東北大学の研究で明らかになっているからです。
スパン課題とは、例えば数字を1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりした後に、覚えた数字をそのまま提示した順番で答えてもらったり、見たり聞いたりしたものとは逆に答えてもらったりする課題です。
Nバック課題とは、例えば数字を、1、7、8、2……5と一つずつ見せたり聞かせたりしている最中に、2バック課題では3番目に8が出てきた瞬間に、その2つ前に出てきた数字である1と答え、4番目に2が出てきたときには、同じくその2つ前に出てきた数字7と答える課題です。
興味深いことに、このトレーニングを続けると、脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、スポーツが上達したりと、さまざまな効果が現れることもわかっています。
脳には「可塑性(かそせい)」と呼ばれる変化する性質があり、加齢により認知機能が衰えたとしても、鍛えることによって機能回復できる可能性があります。
いくつになっても新しいことに挑戦するのに遅すぎることはないのです。
◆ここがポイント◆
・一般に高齢になると新しいことの学習がおっくうになるのは、加齢に伴い脳の「作動記憶量」が減っていくことが原因。
・「作動記憶量」は「スパン課題」や「Nバック課題」といった脳のトレーニングによって拡大できることが東北大学の研究で明らかになっている。
・脳には「可塑性」という性質があり、衰えた認知機能も鍛えることで回復できる可能性がある。
・いくつになっても新しいことに挑戦するのに遅すぎることはない。
【これまでの復習】
脳のトレーニング方法については、連載第8回をお読みください
連載コラム
村田裕之先生
東北大学ナレッジキャスト㈱常務取締役
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター特任教授
東北大学感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点委員
新潟県生まれ。87年東北大学大学院工学研究科修了。
日本のシニアビジネス分野のパイオニアで常に時代の一歩先を読んだ事業に取り組む。経済産業省や内閣府委員会委員など多くの公職を歴任。高齢社会研究の第一人者として著書も多数。近著「スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣」(徳間書店)が好評。
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