旅と人生を楽しむ スマートエイジング®術 旅と人生を楽しむ スマートエイジング®術

なぜクラブツーリズムの旅は“安全”に“安心して”楽しめるのか。
元気に健やかな生活を送ることに良い影響を与えているのか。
その理由を連載コラムで皆様にお届けしていきます。

※スマート・エイジングとは、「エイジングによる経年変化に賢く対処し、個人・社会が知的に成熟すること」を指します。東北大学が2006年から提唱している少子化・超高齢社会における新しい概念で、東北大学が商標を有しています。※登録番号 第6127103号

【第15回】

意外なストレス解消・気分スッキリ商品

GABAを口から摂取してもストレスは軽減できない

ストレス社会の現代は、ストレス解消型の商品が求められています。この2年弱は新型コロナウイルス感染症の拡大で何かとストレス要因が多い年でした。

こうした背景から「精神的ストレスを軽減する」などとうたった食品、サプリメントが市場に多数見られるようになりました。

これらの商品にはGABAという神経伝達物質が機能性関与成分として含まれていることが多いようです。

GABAとは「ガンマ-アミノ酪酸」の略称で、抑制系の神経伝達物質です。これが脳内に分泌されると脳の興奮を抑えることからストレス抑制にも効くと思われているようです。

ところが、実は神経伝達物質のGABAは脳内でしか生合成されません。さらに脳には「血液脳関門」という脳の防御機構があるため、GABAを口から摂取してもここを通過できず、脳内に成分が到達しません。

したがって、上述の食品やサプリを摂取しても効果はありません。この事実は一般にはあまり知られていないようです。

罰系を応用すると気分をスッキリできる

一方、「意図的に気分をスッキリ」させることができれば、精神的ストレスを軽減できる可能性があります。その一つのカギが「罰系(ばつけい)」と呼ばれる脳のネットワーク機能です。

罰系とは扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる脳の中枢を核として恐怖や不快情動に関係する神経ネットワークです。

例えば、暗い夜道を一人で歩いている時に、物陰から突然不審者が目の前に「わっ」と現れたり、山道を歩いていたら急に大きな蛇が出現したりした時に罰系が働きます。人間を含む動物の防衛本能に直結する機能です。

罰系が活性化すると、それに反応して逆に恐怖や不快感を抑制しようと「セロトニン」という調節系の神経伝達物質が脳内に分泌されます。

セロトニンは目覚めや睡眠など様々な生体機能を調節する役割を持っているほか、不安を抑制し、負の記憶が過剰に形成されるのを抑制する機能があります。

この罰系の特性をうまく利用して脳内のセロトニンの分泌を促すと「気分スッキリ商品」になります。

典型的な例は「お化け屋敷」です。これは映像や音響、からくり、役者などを駆使して、利用者に対して幽霊や怪物に対する恐怖を疑似体験させるものです。

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前述の通り、恐怖を体験すると罰系が活性化し、これを抑制しようとしてセロトニンの分泌が促されます。

興味深いのはお化け屋敷を出ると恐怖感はなくなりますが、脳内にセロトニンがしばらく分泌し続けるため、スッキリした気分になります。劇場でのホラー映画鑑賞も似たような商品です。

もう一つの例は「バンジージャンプ」です。これは幽霊や怪物による恐怖体験ではなく、高所からの急速な落下という恐怖体験です。

こちらの場合もジャンプが終われば恐怖感がなくなりますが、セロトニンの分泌がしばらく続くので体験が終わるとスッキリします。高速で急激降下のあるジェットコースターも似たような商品です。

恐怖疑似体験がストレス解消に役立つ

東京・浅草にある「浅草花やしき」は、こうした恐怖体験を異なるアトラクションでいろいろ体験できる場所です。

ここにある「お化け屋敷」は、江戸時代に開園した花やしきで語り継がれる怪談話のひとつ『桜の怨霊』をテーマにした有名なもの。「スリラーカー」では乗り物で移動しながら恐怖感を味わえます。

他にも昭和28年から稼働している日本現存最古のジェットコースター「ローラーコースター」、地上60mから急降下する絶叫マシン「スペースショット」など盛りだくさんです。入場料も65歳以上は半額の500円と年配者にやさしいです。

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ここに挙げた恐怖疑似体験型の商品は、先述の食品やサプリメントよりも、よほど効果を自覚しやすい商品と言えます。ただし、高血圧の方やパニック障害などの精神疾患をお持ちの方は事前に健康状態のチェックをお勧めします。

◆ここがポイント◆

・「罰系(ばつけい)」と呼ばれる脳のネットワークが活性化すると、恐怖や不快感を抑制しようと「セロトニン」という調節系の神経伝達物質が脳内に分泌される。
・セロトニンには、不安を抑制し、負の記憶が過剰に形成されるのを抑制する機能がある。
・罰系の特性をうまく利用して脳内のセロトニンの分泌を促すと「気分スッキリ商品」になる。

<対処法>
・恐怖疑似体験型商品を利用すると、精神的ストレスの軽減効果を自覚しやすい。
例)お化け屋敷、ホラー映画の劇場観賞、バンジージャンプ、ジェットコースターなど

【これまでの復習】
精神的ストレスの軽減には「セロトニン」の分泌を促す生活スタイルが有効です。
くわしくは連載第5回をお読みください。

連載コラム

村田裕之先生

東北大学ナレッジキャスト㈱常務取締役
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター特任教授
東北大学感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点委員

新潟県生まれ。87年東北大学大学院工学研究科修了。
日本のシニアビジネス分野のパイオニアで常に時代の一歩先を読んだ事業に取り組む。経済産業省や内閣府委員会委員など多くの公職を歴任。高齢社会研究の第一人者として著書も多数。近著「スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣」(徳間書店)が好評。

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